21/22 ブンデスリーガ 3節 ビーレフェルトvsフランクフルト

「勝点2を落とした」とも、「勝点1を拾った」とも言い難い、微妙だがある意味妥当な引き分けを開幕から2試合繰り返し、3節はホームに帰ってフランクフルト戦。フランクフルトはここまで1分1敗とあまり良くはない滑り出しだが、なんといっても昨季のホームでの同カードは1-5と派手にやられてしまっている。ビーレフェルトのここまでの未成熟な守備組織を考慮すれば、ここで当たるのは少し嫌なタイミングでもあった。

 

ビーレフェルトのスターティングメンバーは、

オルテガ、ピーパー、ニルソン、ブルンナー、ラウルセン、プリートル、クンツェ、ハック、奥川、クロース、クリューガー。

開幕2試合は先発を入れ替えなかったが、今節はシェプフが出場停止なので、代わってハックが出場。またクロースの相方はラスムからクリューガーに代わった。

並びも機能していたとは言い難いこれまでの4-3-1-2から4-4-2へ変更。中央にプリーテルとクンツェが並び、右に奥川雅也、左にハックが入った。

 

フランクフルトは

トラップ、エンディッカ、ヒンターエッガー、ドゥルム、レンツ、フルスティッチ、ソウ、ハウゲ、リンドストローム、鎌田、ボレ。

移籍騒動の渦中にあるコスティッチが欠場し、鎌田大地が先発に復帰した。

ベンチには長谷部誠や、日本のファン界隈で一部カルト的な人気を誇るイルザンカー、重鎮のチャンドラーらが控えている。

 

 

前半はほとんどの時間、フランクフルトがボールを握って過ぎていった。ビーレフェルト戦は前節フュルト戦でも前半は2本のシュートしか打てなかったが、この日もファーストシュートは20分。それもFKのこぼれ球をクンツェが半ばクリア同然に打ったシュートという、前節と全く同じものだった。前半のシュート数自体は4本であったが、そのほとんどは終了間際。マイボールになってもハイプレスに苦しめられ、特長であるオルテガからのロングキックはフィードというよりクリア。セカンドボールは回収できず、初めてそれなりに攻撃の形を作れたのは失点直後の23分。左でクロースが収め、ラウルセンのサイドチェンジからブルンナーがクロス。前節得点をあげたパターンだったが今回はフィニッシュに結びつかず。初めてバックラインから繋ぎプレスを掻い潜っての前進は35分まで待たなければならなかった。このように見た目の上では圧倒的に押されていたし、実際に失点も喫したが、前半許したシュートは4本。中途半端なプレッシングからかなり自由に運ばれていた前節までと比べると、守備はかなり改善された。

 

フランクフルトは左CBのヒンターエッガーの外側にCHのフルスティッチが落ちて、3-1の形で組み立てをスタートすることが多かった。前節までのビーレフェルトなら、後ろの3枚に対し2トップと奥川がチェックに出ていき中盤のソウや降りてくる鎌田にボールを通され放題だっただろうが、この日は4-4-2にしたので、3-1の1にあたるソウへのコースを消すことを優先してクロースとクリューガーがCBに圧力をかけていく。立ち上がりこそ左SBのレンツを経由して外され、また降りてきた鎌田を捕まえ切れずに前を向かれてしまう場面もあったが、大体はSHの奥川とハックがしっかりとポジションを守り、ブロックをコンパクトに保った。特に左サイドのハックは追い方が上手で、対面のドゥルムにボールが入ってもドゥルムはほとんどCBに戻すパスしか選択できなかった。フランクフルトの前線の3枚、ボレ、ハウゲ、リンドストロームに引っ張られてビーレフェルトの最終ラインはなかなか押し上げられず、中盤ラインとのギャップが20m以上広がっている時間が長かったが、ここを狙われたのは最初の10分程度で、それ以降はリンドストロームとハウゲがサイドを入れ替えたり、ボレがSBの裏に走ってロングボールを欲しがったり、フランクフルトが手を替え品を替え突破口を探すような時間が前半は続いていく。

 

均衡が破れるのは21分、フランクフルトは右サイドのオーバーロードビーレフェルトのブロックをサイドに寄せると、ソウがハーフウェーライン付近をドリブルで横断してボールを中央へ動かす。左SBのレンツが下がってきてボールを受けると、アプローチに行った奥川の死角で、この時は中盤にいたフルスティッチが引き出すレンツはリターンを受け、さらに運ぶと今度はペナルティーエリア付近でハウゲとワンツー。そして鎌田に渡し、走り込んできたドゥルムに鎌田は反転してスルーパス。折り返しを中でハウゲが詰めてフランクフルトがゴールを奪う。レンツに入った時の奥川の寄せ方はブロックの内側へ通すコースを遮断し切れていなかったし、クンツェのスライドが速ければレンツのドリブルのコースを塞げたはずだ。ただしこの失点に関しては、フランクフルトのボール運びが巧妙だったと割り切ってしまっていいだろう。特にソウのドリブルに合わせてフルスティッチとレンツがそれまでと違う移動を見せてボールを受けたのは、奥川とクンツェのズレを生み出す上で有効だった。ビーレフェルトはここまで集中して守れていたが、ある程度は保持で時間を作るか、スペースを回復する手立てがないと守り続けることはなかなか難しい。

 

点が動いてからはビーレフェルトが少し前への意識を強めたので、フランクフルトの保持は変わらずともややオープンな展開になる。28分に、それまではポジションをしっかり守っていたハックがエンディッカまでプレスに行ったシーンなどは象徴的だ。フルスティッチに対してクンツェが飛び出して外され、逆サイドに展開されてしまうということもあった。しかし、もちろんトランジッションが増えることが相手にのみ有利に働くということはない。前半の最後にはプリートルとクンツェが左右を入れ替え、相手の左サイドにボールを誘導してプリートルが奪い、ショートカウンターに転じる場面を2度作った。

 

前半終了時の勢いそのままに、後半はビーレフェルトがDFラインをより高く保ち、試合自体のプレーエリアを前進させることに成功する。ニルソンが跳ね返したボールを奥川が拾ってクリューガーがポスト直撃のシュートを放ったり、今季はここまで消極的なプレー選択が目立つピーパーが自らドリブルで運んだりと、陣地を回復したことによるメリットは随所に見られた。また前半とは変わって後方からしっかり狙ってフィードを送る余裕が生まれたので、クロースは右サイドに流れてターゲットになる。この傾向はクリューガーに代わってラスムが入り、ラスムが左寄りのターゲットになったことで顕著になった。地上戦では、ハックが降りて引き出し、交代で左SBに入っていたチボーラとのコンビで左から前進するような、前半にはなかったパターンも見られた。フランクフルトは時折ショートカウンターでゴールに迫る機会もあったが、前半とは試合のバランスが変わってしまったことで落ち着かせる時間を作れなかった。フルスティッチがDFラインに落ちてボールに触る回数も激減した。

 

78分には、ここまで攻守に最も輝いていたハックが最大の見せ場を作る。ブルンナーのロングスローのこぼれ球をペナルティーエリア外からハックがダイレクトでボレーシュート。これはキーパーにはノーチャンスだったが、ライン上でヒンターエッガーにブロックされる。中央にクロース、ラスムがいるとサイドからのロングスローやハイクロスはどこが相手でも十分な脅威になりうる。この試合に関しては、クロースはヒンターエッガーに上手く封じられていた印象が強いが。

 

その直後にクンツェに代えてヴィマーを投入。ヴィマーはこれがビーレフェルトでのデビュー戦。プリートルを中央に、奥川とヴィマーがやや絞り気味で中央をケアするような形になる。そしてこのヴィマーが同点ゴールを生み出す。相手のFKを防いでからのカウンター。右HSからクロースが中央を飛び越えてロブパスで奥川に展開すると、奥川が収めて走り込んだハックにクロス。これは弾かれたが、クロースが拾い、ややタッチが大きくなって流れたボールをヴィマーがダイレクトでミドルシュート。ダイナミックなカウンターから最後は綺麗なミドルが決まり、後半の攻勢を結果に繋いだ。ヴィマーはその後も難度の高い遠距離のボレーを枠に飛ばしたり、サイドを独力で破ってチャンスを演出したりと手がつけられない状態に。逆転こそならなかったが、デビュー戦にしてホームのファンに大きなインパクトを与えた。

 

 

総括

 

これまでの2戦とは変わって、ソリッドな守備からゲームに入れるというところを見せたビーレフェルト。今季初めてリードを追いかける展開を味わったが、格上相手にあれだけの圧力をかけられるパワーがあることも証明。攻守に手応えのある試合に。個人に目を向けると同点ゴールのヴィマーはもちろん、初先発のハックが攻守両面で圧倒的な存在感で、クリューガーも特に前半は難しい展開だったが実力を示した。ラウルセンの怪我で緊急出場のチボーラも安定していて、新加入組がこぞって良いパフォーマンスを発揮した。昨季は新加入で期待通りの活躍をしたのは堂安、奥川だけということを考えると、早い段階で新戦力がチームにフィットしていることはポジティブ。代表ウィークで離脱する選手も多くはないので、中断明けのシーズン初勝利を目指してこの2週間でチームを成熟させたい。

 

21/22 ブンデスリーガ 2節 グロイター・フュルトvsビーレフェルト

2節はアウェイで12/13シーズン以来2度目のブンデスリーガ挑戦となる、昇格組グロイター・フュルトと対戦。リーグ戦では過去に24度の対戦があり、ビーレフェルトの10勝7分7敗と若干勝ち越しているが、それらは全て2部での出来事。1部では初めての対戦である。12/13シーズンではホームで勝利を挙げられていないフュルトにとっては、ブンデスリーガでの記念すべき”ホーム初勝利”を目指した試合となった。

 

ビーレフェルトのスターティングメンバーは開幕戦と同様、

オルテガ、ピーパー、ニルソン、ブルンナー、ラウルセン、プリートル、シェプフ、クンツェ、奥川、クロース、ラスム。

 

フュルト

ブルヒャート、ホーフマ、バウアー、イッター、マイヤーヘーファー、サルペイ、ゼギン、グリーン、ニールセン、アビアマ、フルゴタ。

ビーレフェルトと酷似した4-3-1-2なので、ビルドアップでサイドバックをどう活かすかが両チームにとって1つのポイントとなる。

昨季までビーレフェルトに3シーズン在籍していたゾイファートはベンチに控えているが、残念ながら出番はなかった。

 

 

前半

 

フライブルク戦では試合を通じてポゼッションに大きな差はなかったが、このフュルト戦では相手にボールを持たれる時間が前半から長く続く。フュルトのCB、ホーフマとバウアーをラスムとクロースがチェックし、アンカーのサルペイを奥川がケアする形となったが、この日もプレッシングは的を絞れず、中盤へのルートも牽制しきれず、楽にボールを持たれる展開が続いた。特にビーレフェルトにとって厄介だったのは、CB-IHの縦の出し入れからサイドを変えられ、フリーでSBに渡されるパターン。フュルトのSBに対してビーレフェルトのSBは大体ハーフウェーライン+10m程度からアプローチに行き、相手のバックパスをトリガーに全体がハイプレスに行くようなシーンでは敵陣ペナルティーエリア角付近まで出ていったが、逆サイドでパス交換を行なってからのサイドチェンジには簡単に出ていけない。先制点を奪った直後のシーンでは、サイドチェンジではないがホーフマから左SBイッターへのパスにブルンナーが飛び出して食いつくもかわされて運ばれ、ニールセンに裏を取られて大きなピンチを迎える。こうして簡単にハーフスペース〜サイドでスピードアップされるシチュエーションは、後半さらに大きな苦悩をもたらすことになる。

 

苦しい展開が続き、シュートを2本、しかもそのうちの1本はこぼれ球を強引に打ち大きく外れたクンツェのミドル、しか放てなかったビーレフェルトだが、前半終了間際にそのもう1本のシュートが決まリードして前半を折り返す。オルテガのフィードをラスムが繋ぎクロースが収めると、クンツェが左SBラウルセンにサイドチェンジのフィードを送り、久しぶりに全体を押し上げて敵陣で保持する形を作る。サイドを広く使った展開から、今度は右サイドのブルンナーのアーリークロスを遅れてファーに入ってきたクロースが頭で合わせてネットを揺らす。高さのあるラスムがCBを引き連れて中に入ったおかげで、空中戦最強のクロースがほぼフリーで合わせることができた。オルテガのフィードに始まり、2トップの高さ、強さを最大限活かすまさにビーレフェルトらしい得点が21/22シーズンのファーストゴールになった。

 

 

後半

 

後半立ち上がりはオルテガゴールキックを契機にまず押し込んだビーレフェルトだが、すぐに失点を喫してしまう。相手のビルドアップからサイドを簡単に前進されると、サイドに流れたフルゴタの内側をグリーンに突かれ、ゴール前に侵入される。アビアマのシュートはポストに当たるが、その跳ね返りを自ら拾って上げたクロスがプリートルの腕にあたりPKを献上、フルゴタに決められて追いつかれる。前半から2トップの一角フルゴタは左サイドに流れてロングボールを引き出す動きを見せていたが、特にブルンナーが前に食いついている際にピーパーを釣り出し、ニールセンにフリーで受けさせるという形が以降目立つようになる。前からのプレッシングも牽制がさらに緩くなり、簡単に通されてしまうのでクンツェやシェプフがやむをえずファールで止めるシーンが目立った。もちろん守備が完全に機能停止していたというわけではなく、56分には奥川がサルペイを潰し、シェプフがゼギンから奪ってラスムに渡し決定機という場面もあったが、これはバーに阻まれる。

 

問題のシーンは10分後。足を痛めたブルンナーに代わって入ったデ・メディーナが相手最終ラインまでプレスに行くが、間に合わずニールセンに通される。これをプリートルが潰せず、レイオフを受けたグリーンに対してもクンツェが間に合わず、シェプフがファールで止め、2枚目のイエローカードを受けてビーレフェルトは10人で残り20分戦うことを余儀なくされる。デ・メディーナは交代で入ったばかりでフレッシュな状態だったが、全体としてボールの奪いどころや誘導先が曖昧で、プレッシングも機能していない状況でSBが相手のSBに対して敵陣のペナルティーエリアの高さまで出ていき続けるのはさすがに無理がある。シェプフは1枚目のカードこそ相手のリスタートを無意味に遅らせて受けた軽率なものであったが、チーム全体の機能不全のツケを払い退場することになってしまった。10人になってからはフュルトの攻撃を受け続ける時間が続き、後半だけで15本のシュートを打たれたが、逆転は許さず開幕から2戦連続のドローで試合を終えた。

 

 

総括

 

残留が最大の目標であることを踏まえると、昇格組のフュルトは勝ち点3を奪いたい相手ではあったが、試合内容を鑑みるとドローは妥当ないし御の字と言える結果だ。劣勢の中で奪ったリードは大事にしたかったが、前節からの守備の課題がより深刻になって露見し、失点とシェプフの退場を誘発してしまった。退場というのは、大抵の場合チームの構造上の欠陥に惹起されるものだと改めて感じた次第である。ただプレッシングの不味さを除けば思ったよりもしっかり戦えている印象もあるので、守備組織の整備において早めに目処が立てば、昨季よりも安定した戦いができるのではないだろうか。

21/22 ブンデスリーガ 1節 ビーレフェルトvsフライブルク

昨季は久しぶりの1部昇格で、大方降格候補の筆頭と目されながら15位でストレートに残留を達成したビーレフェルト。前評判は昨季より少しはマシになった程度だが、今季は残留を勝ち取れるだろうか。

 

開幕戦はホームでフライブルクと。昨季の同一カードではお互いにホームで勝利しての1勝1敗。ヨーロッパのリーグの開幕戦というものはどのチームもまだスカッドが流動的な段階なので、「シーズンを占う一戦」と位置付けることはしづらいが、2016年に1部に復帰して以降のフライブルクはまさに中位(7位→15位→13位→8位→10位)というチームで、今季ビーレフェルトがどの程度1部で戦えるチームなのかを見る上では参考にしやすい相手とも言える。

 

ビーレフェルトのスターティングメンバーは

オルテガ、ピーパー、ニルソン、ブルンナー、ラウルセン、プリートル、シェプフ、クンツェ、奥川、クロース、ラスム。

DFラインは概ね昨季と同じ面々。左SBは終盤ルコキが定着したが、マインツに移籍してしまったのでラウルセンが返り咲き。アンカーには今季からキャプテンに就任したプリートル。その左右にクンツェと、シャルケから新加入のシェプフが入り、ラスムとクロースの2トップの下に奥川が入る4-3-1-2でスタートした。

 

 

前半

 

フライブルクは3-4-3。3バックの3人を大きく動かさず、形を保ったままボールを回すのに対してビーレフェルトは前線の3枚でプレッシャーをかけるが、3人に対して3人で行っている割には簡単に間を通されていることが少し気になった。ただし前線まで通す縦パスには、CBのニルソンとピーパーが広い守備範囲で対応。この鋭い出足はアンカーのプリートルが半ばDFラインに吸収され、CBが飛び出してもスペースを埋められていることで成り立った。フライブルクがサイドから前進しようにも、WBに対してはSBのラウルセン、ブルンナーがしっかりと出ていくので、前の緩さの割に大崩れしなかったのにはこのような背景があった。フライブルクもさほど手数や人数をかけてビーレフェルトの守備を動かしてくることもなく、前半は崩されて危険なシーンを迎えるということはなかった。

 

ビーレフェルトは保持では、両CBが広く開き、オルテガ、プリートルと菱形を形成してポゼッション。フライブルクは特段激しくプレッシングに来ていたわけではないが、縦のルートはしっかり牽制されており、前進の手段はもっぱらオルテガからのフィード。ラウルセンやブルンナーが少し降りてきてもグリフォ、チョン・ウヨンの守備範囲内であり、無理をしてSBに通すようなこともあまり出来ず。前半ビーレフェルトに大きなチャンスは2つ。1つはオルテガのFKにクロースが抜け出してボレー、もう1つはラウルセンがクロースに放り込み、拾った奥川がキーパーとの1対1を迎えたシーンである。クロースへフィードを当て、ラスムや奥川、シェプフが拾いに行くのがメインルートで、その前の段階で無理をすることはなかったが、ほとんどオルテガに預けるだけになっていたピーパーの消極性がやや気がかりである。

 

 

後半

 

ロングフィード攻勢は後半立ち上がりに猛威を振るう。キックオフからニルソンのフィードで陣地を奪うと、さらに回収してオルテガがまたフィード、というループが2分間続く。そして、そのオルテガからのボールをクロースが流すとフライブルクのDFが処理を誤り、かっさらった奥川にまたも決定機。これは決め切りたいシーンだった。これを皮切りに後半もクロース狙いの長いボールが続く。

 

非保持では、プリートルが下がり両SBが前に出て出来上がる3-4-3がより強く出るようになる。後半のフライブルクの狙いは左サイド、すなわちビーレフェルトの右サイド。ヘーラーが流れてピーパーを釣り出し、そこに人数をかけてサイドを攻略しクロスを供給。ビーレフェルトはクロス対応に若干の怪しさを覗かせたが、基本的には人数が足りていたことと、オルテガのセーブに助けられ失点には至らなかった。フライブルクにボールを持たれて押し込まれると、プリートルが後ろに吸収されている分サイドが薄くなり、そこを活用されるようになってしまった。

 

また、守備で不安を感じたのは73分のシーン。3バック中央のハインツから、グリフォが左のハーフスペースをハーフウェイラインまで降りてきてパスを受け、左HVのシュロッターベックにレイオフ。ピーパーは降りるグリフォを追いかけていったが潰しきれず、空いたスペースをシュロッターベックに運ばれフィニッシュまで持ち込まれる。最後はシュートの精度が低くことなきを得たが、「前の緩さ」に後ろの出足が間に合わず、簡単に崩される格好となってしまった。

 

その後はお互い決定的なシーンはなく終了。ビーレフェルトは64分足を痛めた奥川に代わり新加入のハックが出場。76分にニルソン→ファン・デル・ホールン、ラウルセン→デ・メディーナ、ラスム→クリューガー、89分にクロース→セラ。5人の新加入選手が本拠地アルムでのデビューを飾った一方で、ファン・デル・ホールンはこれが最後の出場となった。

 

 

総括

 

奥川がどちらかのチャンスを決めていれば……とも言いたくなるが、フライブルク相手に互角に戦い無失点でのドローはスタートとして悪くない。守備面では修正すべき課題が見つかったが、これはより攻撃力を備えた相手との対戦が始まる前にある程度改善の目処をつけなければならないだろう。8月は残り2試合を戦い、市場がクローズしスカッドが固まった上で代表ウィークでの中断がある。再開後にギアを上げていくためにここからの4週間を大事にしたい。

 

 

W杯2018 グループA 第1節 エジプトvsウルグアイ

アフリカネーションズカップではいつも優勝してるイメージがあるのに、W杯では見かけないエジプトは7大会ぶりの出場。直近の試合は全く見ていないが、クーペルがどんなチームを作ってきたのか、大変興味がある。

なお怪我の状態が気になるサラーは、今日はベンチスタートとなった。

 

ウルグアイは例のごとくタバレス監督の下、チリが散りアルゼンチンとコロンビアが苦しんだ南米予選で、ブラジルに次ぐ2位といい具合に通過。グループAはポット1がロシアなため、このグループにおける本命と目されている。

 

 

 

 順調なエジプト、手探りのウルグアイ

 

4-1-4-1気味でセットしてきたエジプトと、4-4-2のウルグアイ。両チームとも攻撃より守備に重きを置いた、堅い立ち上がりとなった。

 

まずはエジプト。高い位置からウルグアイのDFラインに対してプレスをかけ、まずはビルドアップを分断。下がって受けに戻る 15 ベシーノや 6 ベンタンクールには 17 エルネニーが飛び出してついていくことも多かったが、その際にはFWがしっかりとCBから空いたスペースへのコースを封鎖し、連動したプレスが見られた。

ここを突破されると、時に5バック、あるいは6バックとなることも辞さずにしっかりと全員が守備に戻る。アンカー脇のスペースを突かれた際にはやや対応に苦慮している感もあったが、9 スアレス、21 カヴァーニの2トップに対しては特に厳しい警戒を続け、中央のスペースでは終始自由を与えなかった。

 

一方で、攻撃はエースの 11 サラーを欠く中なかなか思い描いたようには進めることができなかった。相手の強力な2トップが虎視眈々と速攻の機会を伺っていることもあってなかなか多くの人数を割くことができず、ボールを保持できてもウルグアイの素早い帰陣と片サイドへの圧縮の前に突破口を見つけられず、大きなチャンスを作るには至らなかった。

速攻が機能する場面もなく、この辺りはやはり、サラーを中心とした攻撃が主な形としてデザインされているはずなので、彼が出てくればまた違った、「本来狙いたい」エジプトの攻撃が発揮されるのだろう。

 

 

対してウルグアイ。試合前の時点では、もう少しロングボールを中心とした攻撃をしてくるだろうと予想していたが、予想に反してあまりボールを放り込むことはせず、ゆっくりと後ろから繋いでいくことが非常に多かった。CBの 2 ヒメネスと 3 ゴディンは守備面では非常に優秀な選手ではあるが、配球に優れているわけではない。さらにはエジプトの組織的な守備にも苦しめられたが、CHの2人、ベンタンクールとベシーノのボールの引き出し方は素晴らしかった。この2人が、相手の最前線をこえた位置で前を向いてボールを受けると、両SHがHSに絞り、同時に大外のレーンをどちらかのSBがあがってくる、というのはよく見られた場面だったが、これが特に大きなチャンスに結びつくということは残念ながらなかった。

右SHの 8 ナンデス、左SHの 10 デ・アラスカエタは積極的にボールに触ろうという意思は見せていたが、エジプトの堅い守りの前に違いを発揮できず、後半の比較的早い時間帯に退くこととなってしまった。

 

全体的に攻めあぐねているように見えたウルグアイだったが、特に焦りは感じられず、まずは無理をしないで、エジプトの出方を見つつ、いろいろ試行錯誤しながら、といった前半の進め方に。いざとなれば無理が利く2トップに全てを賭けることもできるし、セットプレーもある。というわけでまだ変化させる余地を残して前半を終えたという格好に。

エジプトは、しっかりと狙い通りに進められたけど、サラーが控えていることを除けばこれが精一杯なのでは、という感じに。ちなみにおんなじようなことを岩政先生もハーフタイムにツイッターで指摘してました。

 

 

実は策がなかったウルグアイ

 

後半まず先に目に見えるような変化をさせてきたのは意外にもエジプトの方。4-1-4-1気味だった守備陣形をはっきりと4-4-2に変え、CBとCHの間のパスコースをよりはっきりと分断しに行ったのに加えて、中盤センターにアンカーではなくCHを2枚並べることで、相手のSHにアンカー脇のスペースを突かれる、という問題にも同時に対処した。ウルグアイは後半開始直後こそビッグチャンスを迎えたものの、この変化を前により一層組み立てには苦慮することとなり、また先述の通り、SHの2人が輝けなかったのもここに原因があるだろう。

 

また、ウルグアイの攻撃に関して、前半ではまだ手探りのような状態、という印象を受けた。中盤の底に位置する20歳のベンタンクールは別として、このチームはボール保持に適したメンバー編成とは言えない。しかし、最前線には世界屈指のFWを贅沢なことに2人も抱えている。彼らがゴールに近い危険なエリアでプレーするまでの道筋さえデザインできていれば、あとはなんとかできてしまう可能性が高い。この点に関して、様子見の前半と違って後半はいくつかの用意されたパターンを披露してくれるのでは、という期待を寄せていたのだが、もしかしたら本当に何もないのかもしれないと思わせうようなプレーぶりが90分続いた。
サラーは最後まで登場せず、エジプトがギアをあげて攻撃に注力するという局面がなかったこともあるかもしれないが、簡単に長いボールでFWの2人を走らせるという選択も最後までなかった。

 

こうして試合は終盤を迎え、カヴァーニが放った絶好の位置からのFKもポストを叩き、スコアレスで終わるかとも思われた89分、ついに試合が動く。

右サイドで得たFKから、ヒメネスが中央で頭で合わせてゴール。最後の最後で理不尽な飛び道具を炸裂させたウルグアイが、48年ぶりとなる、W杯初戦での勝利を手にした。

 

 

 

感想

 

守備面での完成度は高かったエジプト。この辺りはさすがクーペルである。この試合ではあまり注目していなかったので、GSの残り2試合で、エジプトの守備についてはしっかりチェックしてみたい。

結局モハメド・サラーに出番は訪れなかったが、このグループ内における力関係とサラー自身のコンディションを考慮すると、1位通過候補筆頭のウルグアイ相手には無理をさせず、ロシア、サウジアラビアとのゲームで存分に力を発揮してもらうほうが得策と言えるので、今日の温存は妥当だろう。ウルグアイ相手に怪我の具合が悪くなってしまっては困るのである。

再三にわたって好セーブを見せたGKの 23 エル・シェナウィ、途中足を痛めながらも守備に奔走し貢献した 22 アムル・ワルダは次の試合まで覚えておこうと思う。

 

 

ウルグアイは苦しみながらも第一関門クリア。今回はゴディンではなく相方のヒメネスだったが、やはり必殺のセットプレー。

スアレスはまだ噛みもせず、ハンドもしなかったが、低調なパフォーマンスだったため、単純にやや衰えがきているのでは?という疑念もにわかに出てくるのではないだろうか。

衰えといえば、老将タバレス監督はついに杖をつくようになっていて、それも気がかりである。

W杯2018 グループA 第1節 ロシアvsサウジアラビア

2018年のW杯、開幕戦はホスト国のロシアと、3大会ぶりの出場となるサウジアラビアの対戦。

 

ロシアは2017年10月の韓国戦を最後に7試合未勝利。やや不安を抱えた状態で臨むW杯に。

一方のサウジアラビアはW杯予選の直後に監督交代。11月より指揮を執るピッツィに率いられたチームは、直近のテストマッチでドイツ相手に善戦するなど、にわかに注目と期待が高まる中で迎える大会となった。

 

 

4バックのロシア

 

今大会のロシアは、3バック(5バック)で戦うことが濃厚だった。しかし、蓋を開けてみると今日のロシアは4バック。これにはおそらくサウジアラビアも驚いたのではないだろうか。オーソドックスな4-4のラインをベースに、フィジカル面の優位を活かし、相手のCBとSBの間の裏をめがけたロングボールを中心にゲームを進めていく。ひとたび前線に長いボールを蹴ってしまえば、体格面での優位があるためあまり労力をかけずに陣地を回復できる。

ロングボールとショートカウンターで、基本的にはあまり人数をかけずに攻撃していたため、サウジアラビアのカウンターに晒されるというリスクは少ない。また長いボールを蹴られても攻撃の時と同様やはりフィジカル面での優位があるということで、ロシアはストレスなく試合を運んでいたように思う。

 

 

一方でサウジアラビア。アジア予選を振り返るとわかるようにサウジアラビアはボールを保持できるチームであるのだが、これで押し切れるのはあくまでアジアレベルでの話。本番直前のテストマッチはイタリア、ペルー、ドイツと格上ばかりと対戦していたし、ドイツ戦ではボール保持を目指さず、素早く効率の良いカウンターで6度か7度、フィニッシュまで至っていた。おそらく今大会に向けてサウジアラビアは、実力をわきまえいわゆる弱者のサッカーの精度をあげるという方向でデザインされていたのだろう。

ところがこの試合では、ロシアがかなり後ろに重心を置いたゲームの入りをしたために、ボールを持つ時間が増え、やや本来の狙いとは違う形でゲームを進めなくてはならなくなってしまった。いや、ある程度ボールを持つ時間が増えることは想定にはあったかもしれない。しかしロシアが戦前の予想とは異なり4バックで挑んできたことは、いずれにせよ誤算であっただろう。

そうした展開の中、12分にコーナーキックの流れから 8 ガジンスキーに頭で決められ、先制を許してしまったことはサウジアラビアにとっては大きな痛手だった。

 

 

挽回できないサウジアラビア

 

早い時間にビハインドを背負い、さらなる苦戦を強いられることになってしまったサウジアラビア。要因としては相手の出方が予想外であったこと、加えて、ロングボールの対応に苦慮していたことがあげられるだろう。サウジアラビア側からの観点で言えば、今日はドイツ戦よりもプレーエリアが前方になった。これはポジティブなことのように一見思えるが、DFラインは手薄な状態でロシアのロングボール、ショートカウンターに対処する必要に迫られることとなった。何度も書いている通り、サウジアラビアの守備陣はロシアの前線のメンバーに対してフィジカル面での劣位がある。

相手の攻撃を簡単に弾き返すことができず、さらにマイボールにすることもままならないという状況ではチーム全体にかかる負荷が大きくなってしまう。42分の失点シーンでは、ロシアの右SB 2 マリオ・フェルナンデスがハーフウェイライン付近から最前線の 10 スモロフを狙って斜めに出したグラウンダーのボールをクリアし損ね、逆サイドから入ってきた 6 チェリシェフに決められてしまった。

 

攻撃面でもサウジアラビアは精彩を欠いていた。ボール保持を不得手としているわけではないといっても、それはアジア予選レベルでは優位を保てるという程度のもの。中盤より前の選手からは、ボールを持たせてくれるのならつなごうじゃないか、という意図が感じられたが、最終ラインの選手たちは組み立てに関して貢献することができなかった。特にCBの選手は組み立てに関与しようという意図があったかも疑わしく、ボール循環に際してCHの選手がヘルプに降りてきて初めて前進できる、というシーンが多々見られた。また前進することができても、ロシアの4-4の横圧縮を前にしてはアタッキングサードまでは進めず、サイドも変えられないという厳しい展開が続いてしまった。

 

90分を通じ、ロシアの守備は及第点であった。素早い横圧縮の後は、フィジカル面での優位を活かして余裕を持った守備ができた。また攻撃において重要視されるハーフスペースを特に厳しくチェックすることで、そこでボールを奪い、中央とハーフスペースの3レーンのみを用いた理想的なカウンターアタックにつなげることができていた。

ボールは相手に持たせながらも決定的なチャンスを与えなかったロシアは、途中出場の 22 ジューバがピッチに入った直後のプレーで 17 ゴロヴィンのクロスからヘッダーを沈め3点目。さらにアディッショナルタイムにも2点を加点し、開幕戦を5-0の大勝で飾った。

 

 

 

感想

 

最終予選では日本とオーストラリアを苦しめ、先週のドイツとのテストマッチでは敗れたものの素晴らしいプレーを披露していたサウジアラビアが、ヨーロッパでもトップレベルとは言えないロシアにこのように無残にも敗れたことはショッキングだ。プラン通りに試合を運べない、となった際に他の選択肢を持ち合わせていなかったのだが、次戦までに修正を施せるだろうか。大会前のテストマッチでもあまりボール保持にこだわらずトランジッションに重きを置いているペルーには0−3の敗戦を喫していて、今日もこの結果ということを考えると、ロングボールの多いウルグアイとの次節にも一抹の不安が残る。

 

対してこれ以上ない最高のスタートを切れたロシア。急なシステム変更で完璧とはいえないもののソリッドな4-4ブロックを披露できるあたりは、個々の選手の戦術理解度の高さがうかがえるし、これを仕込んできたチェルチェソフ監督も立派である。続くウルグアイ、エジプトとの対戦では今日の試合ほどの局地的な質的優位は見込めないが、今後に期待が持てる試合となった。ウルグアイ、エジプト両国の分析チームは、4バックのロシアのスカウティングに忙殺されるだろう。

セビージャvsレアル・ソシエダ

2018年5月4日

La Liga Santander 第36節

セビージャvsレアル・ソシエダ

 

 

来季のヨーロッパのコンペティションへの出場権獲得のため、もう1つも落とせない両チームの対戦。試合前の時点でソシエダは35試合を消化し勝ち点46の10位、国王杯で決勝に進んだ関係で消化試合数が1試合少ないセビージャは、34試合を終えて勝ち点48で9位と、順位の近いチーム同士の対戦である。

 

昨年末にエドゥアルド・ベリッソ監督を成績不振で解任し、後任に11月にミランを解任とされたヴィンツェンツォ・モンテッラを招聘したセビージャ。モンテッラはセビージャをクラブ市場初のCLベスト8へと導いたが、実はセビージャが公式戦で最後に勝利したのはそのCLのラウンド16セカンドレグのマンチェスター・ユナイテッド戦。以降公式戦は9試合未勝利で、リーグ戦に限っても3月上旬のアスレティック・ビルバオ戦以降は7試合勝利がない。2週間前の国王杯決勝でバルセロナに大敗した後スポーツディレクターのオスカル・アリアスが更迭の憂き目に会い、その翌週、すなわち前節のレバンテ戦に敗れたタイミングでついにモンテッラ監督も解任。セビージャにとってもモンテッラにとっても、今シーズン2度目の監督解任となってしまった。

今節よりセビージャの指揮を執るのは、過去にもセビージャを率いた経験を持つ歴戦の将ホアキン・カパロス。なおカパロスは本来スポーツディレクターに着任する予定だったため、セビージャを率いるのは今季限りで、来季以降はスポーツディレクターの職に就くと目されている。

 

アウェイのソシエダは前節アスレティック・ビルバオとのバスクダービーを制した勢いで敵地ピスファンへ。ちなみにリーガの試合はバレンシア中心に毎節数試合チェックしているが、実はソシエダを見るのは今季これが初めて。このソシエダもシーズン半ばに監督交代をしているようである。

 

 

 

 

スターティングメンバー

 

監督が変わったセビージャは、ロケ・メサをアンカーの位置に起用。冬のマーケットでスウォンジーより獲得したものの、モンテッラ体制下ではほとんど出場機会に恵まれなかったメサにとっては監督交代でチャンスが。同様に1月にエバートンから獲得したもののさほど出番の多くなかったサンドロ・ラミレスが、ワントップに起用された。ヘスス・ナバスは太ももの怪我で欠場。右SBの代役はこれまた冬にポルトからやってきたラユンが務めた。

 

ソシエダはパルドが出場停止、シャビ・プリエト、アギレチェ、カルロス・マルティネス、エルストンドが故障で離脱中と主力級に欠場者が多め。復活したイジャラメンディは今季リーガでラキティッチを抑えパス数トップ、右SBのオドリオソラは最近スペイン代表にも招集されている。

 

 

 
襲いかかるセビージャ

 

セビージャはスタートから、積極的なハイプレスでソシエダに迫る。アンカーのメサを中盤に残し、サンドロ、バネガ、エンゾンジ、ノリート、サラビアの5人がビルドアップを開始しようとするソシエダのバックラインに襲い掛かった。まず両CBにサンドロとバネガがプレスをかけ、降りるアンカーのイジャラメンディはエンゾンジがケアしているため、こうしたプレッシングを前にしてはソシエダもSBに高い位置をとらせることができない。そのSBはノリートとサラビアがチェックすることで、前からソシエダのビルドアップに蓋をした。セビージャは試合開始からの数分で、このプレッシングによって高い位置でボールを奪い何度かチャンスを作っていた。

 

対するソシエダのビルドアップ能力はかなり高く、それを続ける意思を見せ続けていた。もちろん相手のDFを90分追いかけ回すことはできないが、ハイプレスから撤退する際にもセビージャはソリッドな守備を見せる。エンゾンジが1列下がりメサと並んで4-4のブロックを形成し、中央をコンパクトに保ち安定した状態でソシエダの攻撃を迎え撃っていた。試合後のスタッツを見るとボール支配率ではソシエダが大きく上回っているのだが、90分通じて枠内シュートを1本しか許していないという点にこのセビージャの安定した守備は現れている。

 

守備はハイプレスと、撤退した際の固さを見せたセビージャ。モンテッラ体制では失点が多かったという点を改善したかったのもあるだろう。組み立てに際しても後ろから手数をかけず、早い段階で縦にボールを入れまずは陣地を回復しようという狙いが見られた。前半に特徴的だったのは、左サイドからの攻撃。バネガが低い位置で左サイドへ流れ、SBエスクデロ、SHノリートが内側のレーンに入って、ソシエダの右SBオドリオソラがボールサイドにチェックに来るように誘導する。ライン際でバネガが受け、オドリオソラが食いついたタイミングでサンドロ、そして逆サイドのサラビアがDFラインの裏のスペースに斜めに走り出し、そこをめがけてバネガがロングパス。ハイプレスからのショートカウンターを除けば、セビージャの攻撃の形はこれが大半であった。ある程度全体が押しあがった状態で一度DFラインの裏に蹴ってしまえば、攻撃が成功しなくてもそのまま前線からのプレッシングにつなげることができるし、エスクデロがほぼ常に内側のレーン、すなわちハーフスペースに陣取ることで、万が一低い位置でボールを失ったとしても被カウンター時にすぐにエスクデロが対応できるし、素早くコンパクトな陣形を作ることができる。この試合でのセビージャの守備の堅さは、攻撃、攻撃から守備、守備から攻撃へのトランジッションを含めた全ての局面を考慮して戦い方を設計した上でのものであっただろう。

 

 

ソシエダのビルドアップ

 

一方ソシエダ。なにぶん今季初めてソシエダの試合を見るので普段どのような試合運びをしているのか、その点に関しては断言できないが、セビージャのハイプレスに晒されてもほとんどロングボールを使わず、後方からパスをつないでの前進を目指していた。特筆すべきは、CBのディエゴ・ジョレンテ、ラウル・ナバスの能力の高さ。セビージャの選手たちのプレスを受けても意に介さず、ペナルティーエリア内であってもパス交換を行い、また自分自身でドリブルし持ち上がることにも長けていた。あれだけのプレッシングを受けながらも高い支配率を維持できたのはまず第一に彼らのプレーがあったからだ。ビルドアップでは主にDFラインの4人と、キーパー、CHのスルトゥサとイジャラメンディ、そしてカナレスも低い位置までパス回しに関与しに降りてくる。ちょっと多すぎでは、とも思える8人でのパス回しを低い位置で行っていたソシエダだが、そこから前進するためのスイッチは2つあった。

1つは、キーパーへのバックパス。キーパーのモヤへのバックパスを選択した際にも、セビージャはサンドロがプレスに来ていた。このときセビージャのプレッシング隊はサンドロを除くと2列目の4人に加えて、カナレスをチェックするメサの5人。対してソシエダは4バック全員とスルトゥサ、イジャラメンディ、カナレスを加えた7人がいる。キーパーまでサンドロがプレスをかけたことで生じるマークのズレと、数的優位を活用して、バックパスをスイッチに一気にプレスの網をかいくぐるシーンは多く見られた。

もう1つは、セビージャの2列目の選手たちが撤退していく瞬間。このときにイジャラメンディやCBの選手が相手のSHめがけてドリブルを開始すると、対面のSHはそのまま下がるか、ボールホルダーに寄せるかの2択を強いられることになる。SHが下がっていけばフリーのボールホルダーは余裕が生まれるので様々なプレーの選択肢を持つことができるし、逆に遅れてSHの選手がプレスにくるようならば、空いたサイドのスペースに走り込んだSBを使うことができる。右サイドではノリートが寄せて来た瞬間にヤヌザイが中へ絞り、空いたスペースをオドリオソラが突くという動きがパターン化されていたし、反対の左ではSBのデラベジャが最初から開き、ハーフスペースでオヤルサバルが下がりながらボールを受けるというパターンがよく使われた。

 

チーム全体で共有された、後方からつないでいくという意思と、人数をかけることで、セビージャの強烈なプレッシングに対抗し、ボールを支配できていたソシエダ。しかし、なかなか決定的なチャンスを作るには至らなかった。ビルドアップで人数がかかりすぎてしまうため、サイドを活用して前進することはできても、そこから中央に進入することはほとんどできなかった。パス回しでのプレス回避は目を見張るものがあったが、結果に結びついていないという点では、セビージャのプランの方が奏功していたと取れる。試合を通じて配球の起点となっていたカナレスを低い位置に押し込み、より危険なエリアから遠ざけられたことは大きかった。

 

 

後半、セビージャ先制

 

両チームがプランを持ってスタートし、それが激しくぶつかりインテンシティの高いゲームとなった前半。セビージャはショートカウンターからのフィニッシュでゴールを奪うこと、ソシエダはより少ない手数でボールを前進させて、高い位置にパワーを割くことが目標になってくるかと思われた後半だったが、開始早々セビージャが先制する。左サイドからDFラインの裏を狙ったボールに抜け出したサンドロをジョレンテが倒してしまい、PKを獲得。ジョレンテはサンドロを倒す意図はなかったが、サンドロが見えない角度から走って来てしまったため不運なファールとなってしまった。これをバネガが決めて、セビージャがリードを奪う。

 

先制以降もセビージャは前線からのプレスを継続したが、連動して高い位置をキープしていたDFラインは前半ほどは押し上がらず、やや低めに。そのぶん中盤に空いたスペースは、エンゾンジが少しポジションを落としてメサと並ぶことでカバーした。ボールを奪ってからの素早い展開の攻撃は健在で、試合が動いてソシエダがより攻撃的になってからは却ってセビージャにショートカウンターからのビッグチャンスが多く訪れた。セビージャの前線の面々はいずれも高い技術を持っているので、少ない人数でも効率よくフィニッシュへと繋げられ、ソシエダにとっては脅威となった。

 

思わぬ形で失点を喫し、ビハインドを背負ったソシエダは、前半よりも前への推進力を高めようとする。ジョゼ、オヤルサバル、ヤヌザイの3人が高い位置をキープしてセビージャのDFラインを押し下げ、カナレスは前半ほど降りないことで中盤にスペースを生む。カナレスに代わってスルトゥサやイジャラメンディがドリブルでボールを前に運ぶことが増え、SBも高い位置をとれるようになった。

 

ボールを保持するソシエダと、ハイプレスから素早い攻撃を狙うセビージャという構図は変わらなかったが、セビージャの先制を機に、前半と比べると、全体的なプレーエリアがソシエダから見て高い位置に推移していった。ただ、皮肉にもこれによって得点のチャンスを増やしていたのはセビージャ。反対にソシエダは、前半と同様、サイドを使って押し込むことはできても、中央へ進入する策を持ち合わせておらず単調なクロスを上げるだけ、という攻撃に終始した。後半半ばから終盤にかけて、ややセビージャにファールが増えたのでフリーキックを獲得できたが、ゴールに迫れたのはこのフリーキックとクロスのみで、いずれも決定的な得点機会には繋がらず。結局、1点のリードを守り切ったセビージャが監督交代後初戦で、久々の勝利を手にし、ヨーロッパへの切符獲得に向け望みをつないだ。

 

 

 
 
 
 

【現地】ビーレフェルトvsカイザースラウテルン

2018年4月27日

2.Bundesliga 第32節

DSCアルミニア・ビーレフェルトvs1.FC カイザースラウテルン

 

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最終盤に差し掛かり、いまだに昇格、降格ともに1チームも確定していないブンデス2部。31節終了時点で5位(勝点44)のビーレフェルトと、最下位である18位(勝点29)に沈むカイザースラウテルンの一戦。

 

いまだ昇格降格ともに確定していないと書いた通り、今季のブンデス2部は異常ともいえる大混戦。3試合を残して5位につけるホームのビーレフェルトは、まだわずかに1部昇格の可能性を残しつつも、試合開始前の時点ではまだ数字上ではまた3部降格の可能性もあった。

 

一方アウェイのカイザースラウテルンは、唯一この大混戦から取り残され、3節以降は一度も降格圏を脱せず最下位。31節終了時点で3部との入れ替え戦に回る16位との勝点差は8。この試合に勝利しなければその瞬間、クラブ史上初となる3部降格が決まってしまうという厳しい状況で迎えるゲームとなった。

 

 

 

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両チームのスターティングメンバー。

 

ビーレフェルトは守備陣に離脱者が続出。CBは年明け以降、主にキャプテンのベルナーとベーレントがコンビを組んでいたが、ベルナーは前節ブラウンシュヴァイク戦から続けて欠場、ベーレントは28節のアウエ戦で負傷して以降、今季中の復帰は絶望的という見通しで欠場が続いている。右SBはレギュラーのディックが累積警告で出場停止のため、18歳のエズカンがトップチームでは初めての先発出場となった。

年明け以降ビーレフェルトは4-1-4-1を採用し勝ち点を重ねてきたが、 29節インゴルシュタット戦以降はエースのクロースがスタメンに復帰し4−4−2に変更。その変更に伴って17歳のマッシモが4戦連続右SHのスタメンを勝ち取っている。

 

カイザースラウテルンは累積警告で出場停止の左SBグヴァラを含め、前節ディナモ・ドレスデン戦からは4人を入れ替え。ベンチには元トルコ代表のベテランFWハリル・アルティントップも控えている。

 

 

 

試合序盤のペースを握ったのはビーレフェルト。普段はパス、フィードに長けたCBのベルナー中心にDFラインから長短のパスを織り交ぜ時間をかけた組み立てを行っていくが、この日はCBのメンバーが全く異なっていたためいつもとは違った試合運びに。早い段階でCHのプリーテル、シュッツに預けるとケルシュバウマーも加えた3人で中央でのボール保持。ラウテルンの守備の強度もイマイチ、特に中央に寄ってハーフスペースでボールを受けるケルシュバウマーを捉えきれていなかったので、停滞しがちだったとはいえ比較的容易に中央のエリアを占有すること自体はできていた。時間の経過とともに相手ゴールまで迫る機会も増え、特に20分から30分にかけては続けざまにPA内でのシュートチャンスを作るも、最後のところではラウテルンもしっかりと集中して防いでいた。

 

一方やや押され気味の立ち上がりとなったラウテルンは、中盤でのトランジッション合戦を避けてロングボール主体の展開。ターゲットは左サイドのイェンセンで、左へと流れたオサヴェにセカンドボールを拾わせることを攻撃のスタートとしていた。オサヴェは左サイドでも起用されている選手で、おそらく試合前からビーレフェルトの右SBエズカンを狙いうちにしていこうという意図があったのだろう。特にオサヴェに対して、エズカンは振り切られてしまう場面が多く、ビーレフェルトは右サイドの守備にやや不安を残していた。

 

 

最初の得点はそのラウテルンの左サイドから生まれる。SBのアブ・ハンナがマッシモからボールを奪うとそのまま持ち上がり、左に開いたオサヴェへ。対面のエズカンをちぎったオサヴェから中央への折り返しは飛び込んできたムヴェネには合わなかったが、ちょうどフリーのアンデルソンへとこぼれ、それを押し込みラウテルンが先制に成功する。

 

アブ・ハンナがマッシモからボールを奪ったシーンはややファール気味であり、また最後に押し込んだアンデルソンのポジションもオフサイドギリギリであったためややスタンドが騒然としたが、この2つの判定はともにノーファール、オンサイドで正しいだろう。結果として、オサヴェに左サイドを突かせるラウテルンの狙いは奏功した。

 

 

この不本意な失点によってビーレフェルトの選手たちはペースを完全に乱してしまう。失点する以前から、会場全体の高いテンションにビーレフェルトの選手たちはネガティブな影響を受け必要以上にエキサイトしている面があったのだが、失点を契機にそれが顕著に現れるようになってしまった。この日は普段よりも多くの観客が入っていたがゆえに、ワンプレーごとのスタンドの反応はより大きく感じられ、それにネガティブに乗ってしまいストレスを露わにする選手が多くいた。欠場していたキャプテンのベルナーやベテランのディックはこのような展開でも、プレーや態度で、チームメイトが正常なメンタルを取り戻せるよう働きかけられる選手だ。そういう意味では、彼らの存在の大きさに改めて気づかされる試合でもあった。

特に若い選手が多く出場していたこの日のビーレフェルトは失点以降のネガティブな空気を払拭できぬまま、前半が終了する。

 

 

 

ビハインドを背負ったビーレフェルトは、後半開始からエズカンに代えてヴァイーラオホ。最近は見られなかったが、ヴァイーラオホは本来1列前の選手でありながらビハインド時に右SBを務めるというのは前半戦にはよく見られた起用だ。3月以降はベンチスタートが続いているものの戦術理解に優れ、イレギュラーな展開でも平均以上のパフォーマンスを安定して出せる貴重な選手である。

 

ラウテルンは勝たなければ降格という相手よりも高いモチベーションと、先制以降のビーレフェルトの自滅でペースを握れた前半の好循環の勢いを変わらず維持し、前半の立ち上がりからは格段に向上したパフォーマンスを後半に入って見せるようになる。左サイド狙いが結実したこと、前半に一時継続して押し込まれた時間帯を徐々に中盤のラインを下げ耐え切ったことで、攻守において抑えるべきポイントをチームとして確立できたことが要因かもしれない。

 

 

ビーレフェルトも前半から選手たちは切り替えていたようには見えたが、安定しだしたラウテルンを切り崩せない、という展開で再びラウテルンにゴールが生まれる。

53分、2点目もやはり左でのカウンターから。ボールを受けたオサヴェがそのまま1人で左サイドを突破し、折り返したボールを再びフリーのアンデルソンがファーで詰めゴール。1点目よりもビーレフェルトが押し込んだところからのロングカウンターで人数が足りていなかったという事情もあるが、前半散々狙われたサイドから再びオサヴェに突破を許しての失点となってしまった。

 

 

2点のビハインドを背負ってしまったビーレフェルトはもうフラストレーションを溜め込んでいる場合ではないので完全に集中を取り戻し攻勢を強める。早いタイミングで長いボールを放り込むことが多くなり、中央で渋滞していた前半とは打って変わってオープンな展開に変わっていく。この攻撃にラウテルンはよく対応していたが、61分、試合の展開を大きく左右するシーンがやってくる。

カウンターで抜け出したフォーゲルザマーからのパスを受けたクロースの放ったシュートを、戻ってきたケッセルがゴールライン上で腕でブロック。ケッセルは退場となりPKの判定が下される。これをクロースが決め、ビーレフェルトが1点差に迫る。

ここまでよく耐えてきたラウテルンだが、30分を残して10人になってしまった上に失点を許し、苦境に追い込まれてしまった。

なおクロースはこのゴールでアルミニア・ビーレフェルトでの得点を112ゴールとし、クラブ内通算得点ランキング単独トップにたった。

 

 

あまりいいとは言えない内容で、かつ2点ビハインドから、一気に数的優位かつ1点差としたビーレフェルトは完全に息を吹き返す。攻撃の圧力に耐えかねたラウテルンのDFラインが徐々に押し下がり、これまでよりも手数をかけずにゴールへと迫れるようになる。そして68分、右サイドからヴァイーラオホがあげたアーリークロスにフォーゲルザマーが頭で合わせ同点。苦戦を強いられてきたビーレフェルトがあっさりと2点ビハインドの帳消しに成功する。

 

 

奇跡の残留へは絶対に勝利が必須なラウテルンは攻撃に転じざるをえなくなったが、むしろ下がりすぎてしまった最終ラインが再び押し上がり、攻撃に転じられるようになって大味なカウンター合戦へと試合は変貌していく。

ケッセルの退場を機にビーレフェルトが押し切るかと思っていたが、2−2になって以降はほぼ互角の内容だったであろう。

 

 

試合が終了に近づくにつれ、ラウテルンは攻撃に割く人数をより一層増やし、とにかく前へとボールを運ぶようになる。ATに入ると、セットプレー時にはキーパーのミュラーもゴール前へ攻撃参加。通常このようなオールアウトアタックはビハインドのチームが行うものであるが、このときはビーレフェルトにリードがあったわけではないのでビーレフェルトもセットプレーを防いだ後はキーパーのいないゴールを全力で狙うというちょっと珍しい局面となった。

捨て身の攻撃でラウテルンは何度かビッグチャンスを作ったが、キーパーのオルテガがビッグセーブを見せビーレフェルトがしのぐと93分。途中出場のシュタウデから抜け出してパスを受けたクロースがそのままキーパーとの1vs1を沈めついにビーレフェルトが逆転。そのまま試合は終了しビーレフェルトは苦しみながらも勝点3をゲット。

一方のラウテルンは2試合を残してクラブ史上初の3部降格が決まってしまった。

 

 

 

感想

 

これまで何度スタジアムで試合を見てきたかわからないが、実は唯一現地で経験したことがなかったのが降格決定の瞬間。今回は初めてそれを見届ける格好となった。

 

ビーレフェルトを応援しているし、力関係を考慮してもこの日はおそらくビーレフェルトが勝ってカイザースラウテルンの降格が決まってしまうだろうと試合前から想定してはいた。しかし引導を渡すというよりは、上位のチームとして立派に勝ってほしいという気持ちがあったので、この薄氷を踏む展開では土壇場の逆転劇にもかかわらず応援するチームの勝利を心から喜ぶ気にはなれなかったので残念な気持ちである。

また、思い入れのあるチームでなくとも目の前で降格決定に立ち会うというのは心苦しいものであった。

 

試合後には電光掲示板にビーレフェルトから、カイザースラウテルンに向けて励ましのメッセージが掲出されていたが、この試合のカイザースラウテルンの選手、そして最後までチームを支え続けたファンの姿勢には敬意を表したい。おそらく多くの選手がチームを去り厳しい戦いになることが予想されるが1シーズンでの2部復帰を陰ながら応援しようと思う。

 

 

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