W杯2018 グループA 第1節 ロシアvsサウジアラビア

2018年のW杯、開幕戦はホスト国のロシアと、3大会ぶりの出場となるサウジアラビアの対戦。

 

ロシアは2017年10月の韓国戦を最後に7試合未勝利。やや不安を抱えた状態で臨むW杯に。

一方のサウジアラビアはW杯予選の直後に監督交代。11月より指揮を執るピッツィに率いられたチームは、直近のテストマッチでドイツ相手に善戦するなど、にわかに注目と期待が高まる中で迎える大会となった。

 

 

4バックのロシア

 

今大会のロシアは、3バック(5バック)で戦うことが濃厚だった。しかし、蓋を開けてみると今日のロシアは4バック。これにはおそらくサウジアラビアも驚いたのではないだろうか。オーソドックスな4-4のラインをベースに、フィジカル面の優位を活かし、相手のCBとSBの間の裏をめがけたロングボールを中心にゲームを進めていく。ひとたび前線に長いボールを蹴ってしまえば、体格面での優位があるためあまり労力をかけずに陣地を回復できる。

ロングボールとショートカウンターで、基本的にはあまり人数をかけずに攻撃していたため、サウジアラビアのカウンターに晒されるというリスクは少ない。また長いボールを蹴られても攻撃の時と同様やはりフィジカル面での優位があるということで、ロシアはストレスなく試合を運んでいたように思う。

 

 

一方でサウジアラビア。アジア予選を振り返るとわかるようにサウジアラビアはボールを保持できるチームであるのだが、これで押し切れるのはあくまでアジアレベルでの話。本番直前のテストマッチはイタリア、ペルー、ドイツと格上ばかりと対戦していたし、ドイツ戦ではボール保持を目指さず、素早く効率の良いカウンターで6度か7度、フィニッシュまで至っていた。おそらく今大会に向けてサウジアラビアは、実力をわきまえいわゆる弱者のサッカーの精度をあげるという方向でデザインされていたのだろう。

ところがこの試合では、ロシアがかなり後ろに重心を置いたゲームの入りをしたために、ボールを持つ時間が増え、やや本来の狙いとは違う形でゲームを進めなくてはならなくなってしまった。いや、ある程度ボールを持つ時間が増えることは想定にはあったかもしれない。しかしロシアが戦前の予想とは異なり4バックで挑んできたことは、いずれにせよ誤算であっただろう。

そうした展開の中、12分にコーナーキックの流れから 8 ガジンスキーに頭で決められ、先制を許してしまったことはサウジアラビアにとっては大きな痛手だった。

 

 

挽回できないサウジアラビア

 

早い時間にビハインドを背負い、さらなる苦戦を強いられることになってしまったサウジアラビア。要因としては相手の出方が予想外であったこと、加えて、ロングボールの対応に苦慮していたことがあげられるだろう。サウジアラビア側からの観点で言えば、今日はドイツ戦よりもプレーエリアが前方になった。これはポジティブなことのように一見思えるが、DFラインは手薄な状態でロシアのロングボール、ショートカウンターに対処する必要に迫られることとなった。何度も書いている通り、サウジアラビアの守備陣はロシアの前線のメンバーに対してフィジカル面での劣位がある。

相手の攻撃を簡単に弾き返すことができず、さらにマイボールにすることもままならないという状況ではチーム全体にかかる負荷が大きくなってしまう。42分の失点シーンでは、ロシアの右SB 2 マリオ・フェルナンデスがハーフウェイライン付近から最前線の 10 スモロフを狙って斜めに出したグラウンダーのボールをクリアし損ね、逆サイドから入ってきた 6 チェリシェフに決められてしまった。

 

攻撃面でもサウジアラビアは精彩を欠いていた。ボール保持を不得手としているわけではないといっても、それはアジア予選レベルでは優位を保てるという程度のもの。中盤より前の選手からは、ボールを持たせてくれるのならつなごうじゃないか、という意図が感じられたが、最終ラインの選手たちは組み立てに関して貢献することができなかった。特にCBの選手は組み立てに関与しようという意図があったかも疑わしく、ボール循環に際してCHの選手がヘルプに降りてきて初めて前進できる、というシーンが多々見られた。また前進することができても、ロシアの4-4の横圧縮を前にしてはアタッキングサードまでは進めず、サイドも変えられないという厳しい展開が続いてしまった。

 

90分を通じ、ロシアの守備は及第点であった。素早い横圧縮の後は、フィジカル面での優位を活かして余裕を持った守備ができた。また攻撃において重要視されるハーフスペースを特に厳しくチェックすることで、そこでボールを奪い、中央とハーフスペースの3レーンのみを用いた理想的なカウンターアタックにつなげることができていた。

ボールは相手に持たせながらも決定的なチャンスを与えなかったロシアは、途中出場の 22 ジューバがピッチに入った直後のプレーで 17 ゴロヴィンのクロスからヘッダーを沈め3点目。さらにアディッショナルタイムにも2点を加点し、開幕戦を5-0の大勝で飾った。

 

 

 

感想

 

最終予選では日本とオーストラリアを苦しめ、先週のドイツとのテストマッチでは敗れたものの素晴らしいプレーを披露していたサウジアラビアが、ヨーロッパでもトップレベルとは言えないロシアにこのように無残にも敗れたことはショッキングだ。プラン通りに試合を運べない、となった際に他の選択肢を持ち合わせていなかったのだが、次戦までに修正を施せるだろうか。大会前のテストマッチでもあまりボール保持にこだわらずトランジッションに重きを置いているペルーには0−3の敗戦を喫していて、今日もこの結果ということを考えると、ロングボールの多いウルグアイとの次節にも一抹の不安が残る。

 

対してこれ以上ない最高のスタートを切れたロシア。急なシステム変更で完璧とはいえないもののソリッドな4-4ブロックを披露できるあたりは、個々の選手の戦術理解度の高さがうかがえるし、これを仕込んできたチェルチェソフ監督も立派である。続くウルグアイ、エジプトとの対戦では今日の試合ほどの局地的な質的優位は見込めないが、今後に期待が持てる試合となった。ウルグアイ、エジプト両国の分析チームは、4バックのロシアのスカウティングに忙殺されるだろう。