セビージャvsレアル・ソシエダ

2018年5月4日

La Liga Santander 第36節

セビージャvsレアル・ソシエダ

 

 

来季のヨーロッパのコンペティションへの出場権獲得のため、もう1つも落とせない両チームの対戦。試合前の時点でソシエダは35試合を消化し勝ち点46の10位、国王杯で決勝に進んだ関係で消化試合数が1試合少ないセビージャは、34試合を終えて勝ち点48で9位と、順位の近いチーム同士の対戦である。

 

昨年末にエドゥアルド・ベリッソ監督を成績不振で解任し、後任に11月にミランを解任とされたヴィンツェンツォ・モンテッラを招聘したセビージャ。モンテッラはセビージャをクラブ市場初のCLベスト8へと導いたが、実はセビージャが公式戦で最後に勝利したのはそのCLのラウンド16セカンドレグのマンチェスター・ユナイテッド戦。以降公式戦は9試合未勝利で、リーグ戦に限っても3月上旬のアスレティック・ビルバオ戦以降は7試合勝利がない。2週間前の国王杯決勝でバルセロナに大敗した後スポーツディレクターのオスカル・アリアスが更迭の憂き目に会い、その翌週、すなわち前節のレバンテ戦に敗れたタイミングでついにモンテッラ監督も解任。セビージャにとってもモンテッラにとっても、今シーズン2度目の監督解任となってしまった。

今節よりセビージャの指揮を執るのは、過去にもセビージャを率いた経験を持つ歴戦の将ホアキン・カパロス。なおカパロスは本来スポーツディレクターに着任する予定だったため、セビージャを率いるのは今季限りで、来季以降はスポーツディレクターの職に就くと目されている。

 

アウェイのソシエダは前節アスレティック・ビルバオとのバスクダービーを制した勢いで敵地ピスファンへ。ちなみにリーガの試合はバレンシア中心に毎節数試合チェックしているが、実はソシエダを見るのは今季これが初めて。このソシエダもシーズン半ばに監督交代をしているようである。

 

 

 

 

スターティングメンバー

 

監督が変わったセビージャは、ロケ・メサをアンカーの位置に起用。冬のマーケットでスウォンジーより獲得したものの、モンテッラ体制下ではほとんど出場機会に恵まれなかったメサにとっては監督交代でチャンスが。同様に1月にエバートンから獲得したもののさほど出番の多くなかったサンドロ・ラミレスが、ワントップに起用された。ヘスス・ナバスは太ももの怪我で欠場。右SBの代役はこれまた冬にポルトからやってきたラユンが務めた。

 

ソシエダはパルドが出場停止、シャビ・プリエト、アギレチェ、カルロス・マルティネス、エルストンドが故障で離脱中と主力級に欠場者が多め。復活したイジャラメンディは今季リーガでラキティッチを抑えパス数トップ、右SBのオドリオソラは最近スペイン代表にも招集されている。

 

 

 
襲いかかるセビージャ

 

セビージャはスタートから、積極的なハイプレスでソシエダに迫る。アンカーのメサを中盤に残し、サンドロ、バネガ、エンゾンジ、ノリート、サラビアの5人がビルドアップを開始しようとするソシエダのバックラインに襲い掛かった。まず両CBにサンドロとバネガがプレスをかけ、降りるアンカーのイジャラメンディはエンゾンジがケアしているため、こうしたプレッシングを前にしてはソシエダもSBに高い位置をとらせることができない。そのSBはノリートとサラビアがチェックすることで、前からソシエダのビルドアップに蓋をした。セビージャは試合開始からの数分で、このプレッシングによって高い位置でボールを奪い何度かチャンスを作っていた。

 

対するソシエダのビルドアップ能力はかなり高く、それを続ける意思を見せ続けていた。もちろん相手のDFを90分追いかけ回すことはできないが、ハイプレスから撤退する際にもセビージャはソリッドな守備を見せる。エンゾンジが1列下がりメサと並んで4-4のブロックを形成し、中央をコンパクトに保ち安定した状態でソシエダの攻撃を迎え撃っていた。試合後のスタッツを見るとボール支配率ではソシエダが大きく上回っているのだが、90分通じて枠内シュートを1本しか許していないという点にこのセビージャの安定した守備は現れている。

 

守備はハイプレスと、撤退した際の固さを見せたセビージャ。モンテッラ体制では失点が多かったという点を改善したかったのもあるだろう。組み立てに際しても後ろから手数をかけず、早い段階で縦にボールを入れまずは陣地を回復しようという狙いが見られた。前半に特徴的だったのは、左サイドからの攻撃。バネガが低い位置で左サイドへ流れ、SBエスクデロ、SHノリートが内側のレーンに入って、ソシエダの右SBオドリオソラがボールサイドにチェックに来るように誘導する。ライン際でバネガが受け、オドリオソラが食いついたタイミングでサンドロ、そして逆サイドのサラビアがDFラインの裏のスペースに斜めに走り出し、そこをめがけてバネガがロングパス。ハイプレスからのショートカウンターを除けば、セビージャの攻撃の形はこれが大半であった。ある程度全体が押しあがった状態で一度DFラインの裏に蹴ってしまえば、攻撃が成功しなくてもそのまま前線からのプレッシングにつなげることができるし、エスクデロがほぼ常に内側のレーン、すなわちハーフスペースに陣取ることで、万が一低い位置でボールを失ったとしても被カウンター時にすぐにエスクデロが対応できるし、素早くコンパクトな陣形を作ることができる。この試合でのセビージャの守備の堅さは、攻撃、攻撃から守備、守備から攻撃へのトランジッションを含めた全ての局面を考慮して戦い方を設計した上でのものであっただろう。

 

 

ソシエダのビルドアップ

 

一方ソシエダ。なにぶん今季初めてソシエダの試合を見るので普段どのような試合運びをしているのか、その点に関しては断言できないが、セビージャのハイプレスに晒されてもほとんどロングボールを使わず、後方からパスをつないでの前進を目指していた。特筆すべきは、CBのディエゴ・ジョレンテ、ラウル・ナバスの能力の高さ。セビージャの選手たちのプレスを受けても意に介さず、ペナルティーエリア内であってもパス交換を行い、また自分自身でドリブルし持ち上がることにも長けていた。あれだけのプレッシングを受けながらも高い支配率を維持できたのはまず第一に彼らのプレーがあったからだ。ビルドアップでは主にDFラインの4人と、キーパー、CHのスルトゥサとイジャラメンディ、そしてカナレスも低い位置までパス回しに関与しに降りてくる。ちょっと多すぎでは、とも思える8人でのパス回しを低い位置で行っていたソシエダだが、そこから前進するためのスイッチは2つあった。

1つは、キーパーへのバックパス。キーパーのモヤへのバックパスを選択した際にも、セビージャはサンドロがプレスに来ていた。このときセビージャのプレッシング隊はサンドロを除くと2列目の4人に加えて、カナレスをチェックするメサの5人。対してソシエダは4バック全員とスルトゥサ、イジャラメンディ、カナレスを加えた7人がいる。キーパーまでサンドロがプレスをかけたことで生じるマークのズレと、数的優位を活用して、バックパスをスイッチに一気にプレスの網をかいくぐるシーンは多く見られた。

もう1つは、セビージャの2列目の選手たちが撤退していく瞬間。このときにイジャラメンディやCBの選手が相手のSHめがけてドリブルを開始すると、対面のSHはそのまま下がるか、ボールホルダーに寄せるかの2択を強いられることになる。SHが下がっていけばフリーのボールホルダーは余裕が生まれるので様々なプレーの選択肢を持つことができるし、逆に遅れてSHの選手がプレスにくるようならば、空いたサイドのスペースに走り込んだSBを使うことができる。右サイドではノリートが寄せて来た瞬間にヤヌザイが中へ絞り、空いたスペースをオドリオソラが突くという動きがパターン化されていたし、反対の左ではSBのデラベジャが最初から開き、ハーフスペースでオヤルサバルが下がりながらボールを受けるというパターンがよく使われた。

 

チーム全体で共有された、後方からつないでいくという意思と、人数をかけることで、セビージャの強烈なプレッシングに対抗し、ボールを支配できていたソシエダ。しかし、なかなか決定的なチャンスを作るには至らなかった。ビルドアップで人数がかかりすぎてしまうため、サイドを活用して前進することはできても、そこから中央に進入することはほとんどできなかった。パス回しでのプレス回避は目を見張るものがあったが、結果に結びついていないという点では、セビージャのプランの方が奏功していたと取れる。試合を通じて配球の起点となっていたカナレスを低い位置に押し込み、より危険なエリアから遠ざけられたことは大きかった。

 

 

後半、セビージャ先制

 

両チームがプランを持ってスタートし、それが激しくぶつかりインテンシティの高いゲームとなった前半。セビージャはショートカウンターからのフィニッシュでゴールを奪うこと、ソシエダはより少ない手数でボールを前進させて、高い位置にパワーを割くことが目標になってくるかと思われた後半だったが、開始早々セビージャが先制する。左サイドからDFラインの裏を狙ったボールに抜け出したサンドロをジョレンテが倒してしまい、PKを獲得。ジョレンテはサンドロを倒す意図はなかったが、サンドロが見えない角度から走って来てしまったため不運なファールとなってしまった。これをバネガが決めて、セビージャがリードを奪う。

 

先制以降もセビージャは前線からのプレスを継続したが、連動して高い位置をキープしていたDFラインは前半ほどは押し上がらず、やや低めに。そのぶん中盤に空いたスペースは、エンゾンジが少しポジションを落としてメサと並ぶことでカバーした。ボールを奪ってからの素早い展開の攻撃は健在で、試合が動いてソシエダがより攻撃的になってからは却ってセビージャにショートカウンターからのビッグチャンスが多く訪れた。セビージャの前線の面々はいずれも高い技術を持っているので、少ない人数でも効率よくフィニッシュへと繋げられ、ソシエダにとっては脅威となった。

 

思わぬ形で失点を喫し、ビハインドを背負ったソシエダは、前半よりも前への推進力を高めようとする。ジョゼ、オヤルサバル、ヤヌザイの3人が高い位置をキープしてセビージャのDFラインを押し下げ、カナレスは前半ほど降りないことで中盤にスペースを生む。カナレスに代わってスルトゥサやイジャラメンディがドリブルでボールを前に運ぶことが増え、SBも高い位置をとれるようになった。

 

ボールを保持するソシエダと、ハイプレスから素早い攻撃を狙うセビージャという構図は変わらなかったが、セビージャの先制を機に、前半と比べると、全体的なプレーエリアがソシエダから見て高い位置に推移していった。ただ、皮肉にもこれによって得点のチャンスを増やしていたのはセビージャ。反対にソシエダは、前半と同様、サイドを使って押し込むことはできても、中央へ進入する策を持ち合わせておらず単調なクロスを上げるだけ、という攻撃に終始した。後半半ばから終盤にかけて、ややセビージャにファールが増えたのでフリーキックを獲得できたが、ゴールに迫れたのはこのフリーキックとクロスのみで、いずれも決定的な得点機会には繋がらず。結局、1点のリードを守り切ったセビージャが監督交代後初戦で、久々の勝利を手にし、ヨーロッパへの切符獲得に向け望みをつないだ。