21/22 ブンデスリーガ 4節 メンヒェングラードバッハvsビーレフェルト

代表ウィーク明けの初戦は、2連敗中で未だ勝利を挙げていないグラードバッハのホーム、ボルシアパークに乗り込む。同州対決だがビーレフェルトとメンヒェングラードバッハは200kmほど離れているので、ダービーという趣はない。ビーレフェルトは今季ここまで3戦連続ドローで、勝利こそないものの無敗。昨季から通じてブンデスリーガでは6戦連続無敗(といっても1勝5分だが)。ビーレフェルトが最後に負けた試合が、4月末に行われた昨季の31節、ここボルシアパークでのグラードバッハ戦で、5-0の大敗を喫している。グラードバッハ戦は直近11戦勝利がなく、アウェイ戦は過去に1勝したことがない。苦手意識で溢れているが、相手の不調にかこつけて記念すべき1勝を狙いたい試合であった。

 

先にスタメン。

 

ビーレフェルト

オルテガ、デ・メディーナ、ニルソン、ブルンナー、ラウルセン、プリートル、シェプフ、ヴィマー、ハック、奥川、クロース。

 

フランクフルト戦の442を継続。ピーパーが足首の軽い怪我でメンバー外、デ・メディーナが右のCBに入る。出場停止明けのシェプフがスタメンに復帰し、CHに。前節同点弾のヴィマーが右のSHで今季初先発。奥川雅也はクロースとの2トップのような形に。

 

グラードバッハ

ゾマー、ギンター、バイヤー、エルヴェディ、スキャリー、ネッツ、ザカリア、ノイハウス、ホフマン、シュティンドル、プレア。

 

新型コロナ陽性でウニオン戦を欠場したギンターが復帰し、この日は3バックに変更。アルジェリア代表に招集されていたベンセバイニが代表活動中に怪我を負い、左のWBにはネッツが入る。ザカリアが今季初先発。

 

 

応援しているチームの試合で、悔しいと感じたことは久しぶりかもしれない。冒頭でも述べた通りビーレフェルトにとっては相性の悪いカードであり、昨季は残留争いのクライマックス、ビーレフェルトも勢いが出てきたタイミングでものの見事にボコボコにされたのは4月の出来事なので、記憶に新しい。好きな選手であるが、前回対戦でビーレフェルトのブロックを破壊するミドルパスを再三繰り出していたマティアス・ギンターの顔を対戦相手として見るのは少し苦々しい。ただし、昨季は昨季。今はグラードバッハの調子が上がらず、対してビーレフェルトは前節フランクフルト相手にポジティブな戦いぶりを見せた。ここでCL出場圏内が目標となるようなチームを叩ければ、ビーレフェルトにとっては今季も残留が最大のミッションとはいえ、一気に視界が開けてくるのではないか。やや野心的な願望は脇に置いても、いかに内容が良くても4戦連続勝利なしというのも少し心許ない。ということで、現実的に勝利を望む気持ちがチームも、ファンも、大きかったのではないかと思う。

 

 

最初の2試合は3バックの相手に4312で挑みプレッシングがあまり機能しなかったが、前節は4バックのフランクフルト相手に442で一定の成果。この日も同じ442で、中盤ラインがほぼハーフウェイライン前後にいるくらいの位置で全体のブロックを保ち、グラードバッハに対して引きすぎずにプレッシングをしていった。ここまで4バックで来ていたグラードバッハが3バックにすることを読み当てていたかは定かではないが、ギンターが復帰すること、ベンセバイニが欠場することはわかっていたので、少なくとも3バックへのシフトチェンジの可能性もある程度は想定していたと思われる。クロースを中央に、奥川が左HVのエルヴェディをチェックし、右HVのバイヤーに多くボールが渡るように誘導していた。バイヤーにボールが渡ると右SHのハックがカバーシャドウでWBもしくはCHへのコースを切りながらプレスに行く。CHのザカリアとノイハウスに対してはシェプフとプリートルが目を光らせているため、中央を割られることは少なかった。ハックが前に出て行く分グラードバッハの右WBスキャリーは空きがちだが、ここはハックが二度追いするか、あるいはクロースが気を利かせて戻ることで、序盤はケアできていた。クロースと奥川の2トップは特にHVにボールが渡り角度がついた時に、CHへのコースをケアする意識がかなり強かったと思う。これまでの反省を踏まえて、非保持の局面にしっかり修正を施していることが窺えるのは心強い。

 

ただし、こうして守備組織を整備して臨んでも、90分間を通して同じアプローチを続けることは難しいし、ブンデスリーガのような舞台では当然相手も様々な工夫を凝らしてくる。16分には、ホフマンがDFラインまで降り、それをシェプフが左から追いかけたが、キーパーのゾマーを使って回避され、逆にビーレフェルトのゴール前まで運ばれてしまう。さらにグラードバッハはこれくらいの時間帯から、ザカリアもしくはノイハウスをDFラインまで落とし、右HVのバイヤーをSBのように開かせ押し上げることで、ビーレフェルトのプレッシングの基準点を意図的にずらしにくる。ビーレフェルトの前線は対応に戸惑っているところで、今度は3バックを保ち、ハックが出づらくなって余裕を持てたバイヤーがドリブルで運んでいく。20分には、無理にボールを奪いに行ったヴィマーがネッツに剥がされ、前線にボールを送られると、一度は奪い返すもニルソンにミスが出て、シュティンドルからパスを受けたプレアにネットを揺らされる。これは幸運にも、シュティンドルからプレアのパスがオフサイドだったためゴールとならなかったが、シュティンドルが自らシュートを放ってもいいような場面だっただけに、まさに命拾い。その後はややオープンな展開になってくるが、前からしっかりと縦へのルートを牽制しつつプレッシャーをかけているので、強引に前線に通してきた場合もニルソンやデ・メディーナがしっかりと前に出て対応できる。デ・メディーナは本職でないCB起用ながら安定感があり、ニルソンも今季は強さを発揮する機会が多い。この時間帯は、守備はどうにか保てていただけに、奪った後に縦に急ぎすぎてしまう傾向さえなければ、もう少し試合をコントロールできたかもしれない。流れを引き寄せきれず、34分にプレッシングを外され失点してしまう。シュティンドルのシュートがラウルセンにディフレクトして入ったものなので不運ではあったが、サイドを振られネッツに運ばれ、中央のスペースも開けてしまっていたので致し方ないか。プレアのオフサイドのシーンは僥倖といった具合なので、ツキという観点でも帳尻があってしまったか。

 

前半の残りの10分は、オープンな展開は分が悪いとはっきりわかったのでプリートルやシェプフが引き出して落ち着かせる場面が目立つ。守備でも4-4のブロックを組んで我慢強く陣形を保つことを優先するようになる。焦れたノイハウスが強引に出した縦パスをプリートルが奪ってスルーパス。奥川が抜け出し、ゾマーと1vs1に。今季はなかなか決定機を決めきれない奥川くん。一度はゾマーに止められてしまうが、跳ね返りを冷静に押し込み、一度は副審の旗が上がるもVARのチェックの結果ゴールが認められ、同点に追いつく。昨季は前半で勝負が決してしまうような試合が多く、18分で3失点した4月のグラードバッハ戦もまさにその一例であったが、先制点を許しても崩れず、終了間際に追いついてハーフタイムへ向かえるあたりは、昨季との大きな違いだ。

 

後半は、HVには両SHが出て、奥川とクロースのどちらかがしっかりとザカリアを消す、という意識が強まる。前半と比較してヴィマーが相手の最終ラインまでプレスに出て行く頻度が上がったので、ヴィマーが飛び出して空いたスペースを埋める作業に、クロースが前半にも増して追われることになる。4-4でブロックを作れば、降りるCHを捕まえに前に出るシェプフとプリートルの空けたスペースを、ハックが絞って埋める。前半よりもコンパクトさを保つ意識と、連動性が向上した。前半よりも 消耗の度合いが大きそうだが、しっかりと守れるようになったビーレフェルト。しかし、グラードバッハの左WBネッツが足を痛めて退いたところから流れが少し変わってしまう。ヒュッター監督はネッツに代えてヘアマンを投入。スキャリーを左に回し、ヘアマンは右のSHに入って、4バックに変えてくる。DFラインは、右のSBから、バイヤー、ギンター、エルヴェディ、スキャリーという並びに。3バックの時と同じようにヴィマーがエルヴェディに食いつくと、スキャリーが空いてしまう。左のハックは上手くカバーシャドウで消しながら寄せ、あるいはSBに出されても自分がさらに追いかけられるような距離感、角度でアプローチにいけるが、ヴィマーはまだ背後をケアしつつホルダーに寄せるほどの能力はない。外で待つスキャリーに展開されると、クロースが戻ってきてくれるのだが、スキャリーにドリブルされるとそれにまでついて行くことはさすがに求められない。この試合は気を利かせて様々なスペースにヘルプに行く印象のあったクロースだが、消耗が激しくなってきてしまう。

 

グラードバッハのシステム変更で崩れ始めたビーレフェルトの守備のバランスは、69分に決壊する。グラードバッハのバックラインでのパス回しで、左から右へとボールが動き、ギンターからSBのバイヤーにボールが出て、ハックがチェックに行く。ギンターの縦のコースを消していた奥川は、そのままバイヤーの中へのコースを切りたかったが、ここが奪いどころと判断し、バックステップでスペースを作りリポジショニングするギンターについていってしまう。奥川としては、CHへのコースはクロースが封鎖している腹づもりだったのだろうが、クロースは絞りきれておらず、中央のベネスにフリーで通されてしまう。ザカリアをマークしていたシェプフが慌ててベネスに寄せるが、ザカリアはその隙をついてシェプフの視界から消えて右サイドの外へ。ベネスがフリーのザカリアにつけると、サイドでヘアマン&ザカリアvsラウルセンの2vs1。ザカリアは外のヘアマンを使って、ヘアマンからのクロスをシュティンドルに決められてしまう。不調といえども、各国代表クラスのタレントが揃う強豪グラードバッハ。一瞬の隙を突かれて勝ち越しを許してしまう。直後にはザカリアの個人技でプレッシングをかわされ、またもヘアマンの折り返しに今度はザカリア自身が合わせて2点差。ここで試合の趨勢は決してしまった。

 

強豪相手にしっかりと食らいついていっても、少しの隙を見逃さずに仕留め切る力、最後に違いを生み出すタレント力、こういった力によってねじ伏せられてしまうという悔しい試合になってしまった。前節大暴れのヴィマーはこの試合も馬力十分で躍動したが、守備での不安定さを考えるとグラードバッハが4バックに変えたタイミングで手を打つべきだったというのは結果論だろうか。守備に奔走したクロースは失点のシーンでいてほしいところにいられなかったし、今チームを地味に支えているハックは、終盤疲れ切って決定機をフイにしてしまった。

 

こうして悔いの残るポイントを書き並べると、ネガティブな印象を受けるかもしれないが、実はそうではない。昨季のこの時期は絶賛7連敗中。上位チームばかりとの対戦という日程上の悪条件はあったが、そのほとんどが前半に失点を重ねて試合が死んでしまい、いつも同じような展開なので、久しぶりの1部の舞台で、誰が、何を、どの程度ブンデスリーガでやれるのか、ということを知ることすらままならなかった。2点差以上がつけば、あとはロクに反撃もできずただ負けるだけだった。4試合終えての勝ち点3は、昨季よりも1少ない。しかし、この日はグラードバッハ相手に70分間互角に戦い、チームとしても個人としても様々な収穫や課題の発見があった。3点目を失ったあとも、折れずにゴールを目指し続けることができた。ポジティブな発見の例をあげると、CBで起用されたデ・メディーナ。昨季はSBとして、ブンデスリーガで十分戦えるようなパフォーマンスではなかった。しかし今節は本職ではないCBで起用されながら、プレアやヴォルフ相手に引けを取らず、攻撃でも積極的に組み立てに関与し、ボールを前に運ぶ姿勢を見せた。

 

これから先も、ホッフェンハイム、ウニオン、レバークーゼンが対戦相手として待っている。ビーレフェルトはやっとのことで残留した昨季とは違うということを結果で証明するにはいずれも不足のない相手であるが、残念ながら今節のグラードバッハ戦はその時機ではなかった。それを心の底から悔しいと思うと同時に、敗れて真剣に悔しさを感じられることに満足感もあるのである。